虫歯菌と脳出血の関係とは

      2016/03/08

 

ヤフー・ニュースのIT・科学カテゴリーに、こんなニュースを見つけました。

⇒ 「虫歯菌、脳出血に関与=止血作用を阻害ー国循」

※2016年2月20日 リンク切れ確認

 

 

ただ、この題名には少し語弊があって、論文を読むと分かりますが、虫歯菌と脳出血の関係はもともと明らかになっています。そうではなくて、虫歯菌の遺伝子によって脳出血の起こりやすさが変わる、ということのようです。私は虫歯は全く専門ではありませんが、脳出血は完全に専門ですので、非常に気になるところです。ですので、ちょっと元の論文に当ってみました。

 

なお、このブログは特に専門家向けの情報発信を目的としたものではありません。あくまで一般の方向けですので、一般の方が見て分かり易いようにできるだけシンプルにまとめることを心掛けます。これは、以降の医療系に関する記事全般に言えることですね。難しい言葉と文章がズラズラ並んでいても読む気が起きないでしょうから、ポイントだけをなるべく端的に分かり易く説明していきます。

 

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cnm遺伝子陽性ミュータンス菌は脳出血や深部微小脳出血と相関

 

問題となっている論文のタイトルを和訳するとこんな感じでしょうか。なお、元の論文自体はコチラになります。

 

オープンアクセスで誰でも見れますので、英語に自信がある方はご自分でも読んでみてください。ただ、この手の論文は専門用語が多いため、慣れていないとかなり読みづらいと思います(慣れていても読みづらいですが・・・)。

 

 

患者背景

  • 99人の脳卒中患者を対象に調査した
  • 脳卒中の内訳は、脳梗塞:67人、脳出血:27人、一過性脳虚血発作:5人 であった
  • 脳梗塞の内訳は、ラクナ梗塞:25人、アテローム血栓性脳梗塞:15人、心原性脳塞栓症:16人、その他:11人 であった
  • 脳出血の内訳は、高血圧性:23人、アミロイドアンギオパチー疑い:4人 であった
  • 99人中、51人(52%)の唾液からミュータンス菌が見つかった
  • 51人中、11人(22%)でミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だった
  • cnm遺伝子が陽性だった人たちと陰性だった人たちで、それ以外の背景に大きな違いは無かった

 

さて、どうでしょうか?ここまででも結構難しいと思いますので、少し解説を加えます。

 

脳卒中というのは、脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こる病気のことですね。我々は脳血管障害と呼んでいます。脳の血管が詰まれば脳梗塞に、逆に破れれば脳出血になります。なお、有名なくも膜下出血も脳卒中に入ります。一般的には、脳梗塞:脳出血:くも膜下出血=7:2:1くらいだと言われていますので、今回はくも膜下出血は関係ないため入っていませんが、このくらいの比率になるのは自然かと思われます。

 

ちなみに、途中で一過性脳虚血発作という何だか難しそうな病気が出てきましたが、これは脳の血管が一時的に詰まって脳梗塞になりかけたものの、運良く詰まりが解消されて血液の流れが再開し、脳梗塞にならずに済んだもの、と考えて貰えれば良いと思います。ちょうど、心臓で言うところの狭心症に相当するものですね。

 

また、脳梗塞にも色々と種類があります。詳しくはまた別に解説しますが、専門的なこととなると非常に難しいですので、かなり単純化して

  • ラクナ梗塞:小さい血管の詰まり
  • アテローム血栓性脳梗塞:大きい血管の詰まり
  • 心原性脳塞栓症:心臓の不整脈が原因で血の塊が飛んだ

と思っていただければ良いと思います。

 

また、脳出血にも内訳が書いてありますが、要するにほとんどが高血圧が原因だということです。ですので、皆さんも塩分の摂り過ぎには気をつけてくださいね。なお、高血圧性脳出血は、そのほとんどが小さい血管が破れることで起こる、と考えていただいて大丈夫です。なので、小さな血管に問題が起きるという意味では、上に書いたラクナ梗塞と一緒(詰まるか破れるかの違い)、ということになります。

 

ちなみに、アミロイドアンギオパチーというのは、血管版アルツハイマー病と考えてください。すなわち、脳の神経細胞に異常なタンパク質が溜まって死んでいってしまうのがアルツハイマー病ですが、この異常なタンパク質が血管の壁に溜まってしまうのがアミロイドアンギオパチーということになります。

 

 

脳卒中のタイプによるミュータンス菌のcnm遺伝子陽性率の違い

  • 脳出血では27人中6人で、脳梗塞では67人中4人でミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だった
  • ミュータンス菌のcnm遺伝子陽性率は、高血圧性脳出血で26%と圧倒的に高かった
  • ミュータンス菌のcnm遺伝子陽性率は、高血圧性脳出血以外の脳卒中だと6%であった
  • ミュータンス菌のcnm遺伝子陽性率は、脳梗塞の中ではラクナ梗塞が12%で一番高かった

 

今回はそこまで補足することはありません。ここで言いたいことは、

  • ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だと、小さい血管がやられやすい傾向にある

ということでしょう。高血圧性脳出血もラクナ梗塞も、小さい血管の問題で起こるのでしたね。

 

 

微小脳出血はミュータンス菌のcnm遺伝子陽性患者で明らかに多い

  • 99人中、95人で頭部MRI検査を行った
  • 95人中、53人(56%)で微小脳出血が見つかった
  • ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だった11人中、9人(81%)で微小脳出血が見つかった
  • それ以外の84人中、44人(52%)で微小脳出血が見つかった
  • 微小脳出血の総数は、ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だった人たちで明らかに多かった
  • 脳出血の総数は、ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だった人たちで明らかに多かった
  • 深部微小脳出血の総数は、ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だった人たちで明らかに多かった
  • 深部以外の微小脳出血の総数には、ミュータンス菌のcnm遺伝子による明らかな違いを認めなかった
  • 特に3個以上の深部微小脳出血を持つ人の中で、ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だった人が圧倒的に多かった

 

ここはさすがにちょっと解説が必要かと思います。ただその前に、ここで言いたいことは、

  • ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だと、微小脳出血が明らかに多くなる
  • その中でも、深部微小脳出血が圧倒的に多くなる(逆に他は変わらない)

ということです。

 

まずは微小脳出血についてですが、これは正直何とも説明が難しいですね。というのも、概念自体が比較的新しいこともあり、定義が曖昧だからです。臨床的に言うと、通常のCTやMRIでは全く写りませんし、特に何も症状は出ません。ですので、脳出血そのものとは異なります(ただし、強い相関関係にはあります)

 

しかし、MRIの特殊な撮影方法(T2* -weigted image)で撮影すると、今回は論文のfigureを拝借しますが、

スクリーンショット 2016-02-07 21.17.19

 

こんな感じで、何だかブツブツと気持ち悪い感じで抜けて写って来るのが確認できます。これは、血液成分が変性したヘモジデリンという物質がその場所に溜まっていることを示しています。ですので、微小脳出血を非常に簡単に言うならば、小さな血管に異常が起きて血液成分が周囲に滲み出して変性したもの、といったところでしょうか。この故に、微小脳出血はラクナ梗塞とあわせてSVDs: small vessel diseases(適切な日本語訳はありません)と呼ばれるようになって来ています、

 

また、微小脳出血の場所による分類も行っています。これに関してですが、原文では

The locations of CMBs were categorized into lobar (cortical gray or subcortical white matter), deep (deep gray matter in the basal ganglia and thalamus; or white matter in the corpus callosum, internal, external, and extreme capsule) and infratentorial (cerebellum and brainstem) regions.

 

と定義しています。これは・・・仮に日本語に訳したとしても、脳の解剖の知識がある程度無いとさすがに難しいですね。"deep"は脳の深いところ、"lobar"と"infratentorial"はそれ以外、くらいの適当な理解で全然OKだと思います。そして、この"deep"こそがラクナ梗塞や高血圧性脳出血の好発部位、要は起きやすい場所なんです。

 

 

結論

 

ここまで来ると、この論文の言いたいことが分かって来たんじゃないでしょうか。そうです、ラクナ梗塞も高血圧性脳出血も、そして深部微小脳出血も、全て"deep"に起こる小さい血管の問題なのです。そして、ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だとこれらが全て起きやすくなる、と言っているわけですね。

 

ですので、これらを総合すると、

 

ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だと、脳の主に小さな血管がダメージを受けやすい

⇒ 結果、脳出血や深部微小脳出血(脳梗塞だとラクナ梗塞)が起きやすくなる

 

となり、タイトル通りの結論になるわけですね。

 

では、何故ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だとこのようなことが起こるのか?についてですが、簡単に言うとまだ細かいことは分からないようです。ですので、論文中で想定されている機序をごく簡単に書くにとどめます。なお、ここまで散々出て来たcnm遺伝子ですが、コラーゲンにくっつくCnmタンパク質というものをコードしています。つまり、cnm遺伝子陽性のミュータンス菌はコラーゲンにくっつき易い、と考えると分かり易いかと思います。

  1. エナメル質の破壊により、歯の血管からミュータンス菌が血流に乗る(菌血症)
  2. 加齢と共に脳血管のバリアー(BBBと言いますが、ここでは詳述しません)が弱まる
  3. 長期に渡る高血圧により、脳血管壁にコラーゲンが沈着する
  4. ミュータンス菌が、弱った脳血管のバリアーを通過して脳血管壁のコラーゲンにくっついてしまう
  5. これをきっかけとして、脳血管に炎症が起こる
  6. 余計に脳血管のバリアーが弱まり、脳血管壁のダメージも強まる
  7. ミュータンス菌のせいで血小板がコラーゲンとくっつけなくなり、局所的な出血が遷延する

とまあ、こんな感じですね。

 

なお、原著は、

In summary, Cnm proteins of S. mutans may be associated with development of deep CMBs and ICH with a mechanistic link to chronic inflammation.

という記載で締めています。

 

すなわち、ちょっと意訳しますが、ミュータンス菌のcnm遺伝子が陽性だと、慢性炎症への移行を介して深部微小脳出血や脳出血が起こりやすくなるといった感じで、先に書いた結論と推定される機序とを合わせた感じになりました。

 

ということで、今回は以上になります。長々とお疲れ様でした。簡単に書くとは言っても、やっぱり難しいものは難しいですね。少しでも皆さんの理解の助けになっていれば嬉しいです。

 

まあただ、虫歯予防の観点からもそうですけど、そもそもミュータンス菌に感染しないことが重要だと思います。感染しちゃった場合は、cnm遺伝子が陽性だと歯だけじゃなく脳でも悪さし易いよ、という論文ですよね。私はもう遅いですが、小さいお子さんや赤ちゃんにはその辺り気を遣う必要があるかと思われます。

 

既にミュータンス菌に感染しているだろう私としては、せめてしっかりと歯磨きをし、ミュータンス菌の影響をできるだけ少なくするくらいでしょうか。遺伝子がどうかまではよく分かりませんからね。下の電動歯ブラシ(の古い型ですけど)でしっかり磨こうと思います。

 

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