善きサマリア人の法とは?ここに来て甚だしいJALと日本医師会の浅はかさ

      2016/03/08

 

みなさんは「善きサマリア人の法」というものをご存知でしょうか?

 

こんばんは、Kaaazです。突然何を言い出すんだ?と思われたかも知れませんね。今日は愕然とするニュースが入って来たため、初の医療関連の記事を書いてみようと思います。まあ、一応航空関連でもあるんですが・・・。

 

さて、問題の記事ですが、これになります。

 

これを読まれて、みなさんはどのような感想を持たれるでしょうか?読むのが面倒な方のために、できるだけ簡単に要約すると、

  • JALにおいて、機内急病人は年間350-360件程度
  • うち、「機内ドクターコール(いわゆる、「お医者さんはいらっしゃいませんか?」ってやつですね)」が必要となるのはその2/3程度
  • うち、実際に医師が呼応するのはその半分程度
  • CAが医師の座席を把握できておらず、実際に医師であることの証明も困難
  • JALと日本医師会が、「JAL DOCTOR登録制度」という事前登録制度を開始すると発表
  • 登録した医師には、ラウンジへの入室資格などのインセンティブを用意(そもそもちゃんとは決まっていないみたいです)
  • 日本医師会側は、「インセンティブは二の次。医師としての力が発揮できればいい」と発表

といった感じです。要するに、機内急病人が発生した場合、今までは機内ドクターコールによる任意での呼び出しだったのが、これからは事前登録により座席を把握され、有事の際は強制的に呼び出される、ということですね。今回はこの件に関して、個人的な意見を交えて解説していこうと思います。

 

なお、予め断っておきますが、航空機内での急病人対応に関しては、医師とそうでない方とで意見が大きく食い違うことがしばしばあります。そして、これから述べる内容はあくまで医師一個人の意見になります。それをご理解いただいた上で、以降の記事を読み進めていただければと思います。

 

まあただ、往々にして医師の多くは同じような意見であることが多いとは思います。また、医師からするとこの制度が如何に危険極まりないものであるか、ということが分かっていただければと思います。

 

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善きサマリア人の法とは

 

最初にも出て来ましたが、これは一体何でしょうか?Wikipediaから引用すると、

善きサマリア人の法(よきサマリアびとのほう、英:good Samaritan law良きサマリア人法よきサマリア人法とも)は、「災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」という趣旨の法である。誤った対応をして訴えられたり処罰を受ける恐れをなくして、その場に居合わせた人(バイスタンダー)による傷病者の救護を促進しよう、との意図がある。

と書いてあります。要するに、「善意でできる範囲内のことをしてくれたんだったら、最悪結果が伴わなくても責任は問いませんよ」ということです。

 

これを見て、「え?そんなの当たり前なんじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかも知れません。しかしこの善きサマリア人の法、アメリカやカナダなどでは施行されているのですが、日本では明確には立法化されていません。では、何故立法化されないのでしょうか?

 

私は法律の専門家では無いため、もしかすると間違っていたり勘違いしていたりすることもあるかも知れませんが、一応調べた限りで言うと、

  • 民法第698条:緊急事務管理に関する規定

が、善きサマリア人の法に相当する法律であると解釈されているようです。すなわち、英米法体系とは異なる大陸法の法体系に属している日本としては、敢えて善きサマリア人の法を立法化しなくても、この緊急事務管理に関する規定で間に合う可能性が高いと考えられていることがその一因のようです。

 

 

民法第698条:緊急事務管理に関する規定

 

そもそも事務管理とは何でしょうか?これは、特段義務があるわけでもないのに他人のために行動(→事務)することを言います。そして、その行動を取った張本人のことを管理者と言います。

 

これらを踏まえた上で、これまたWikipediaからの引用になりますが、

管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない

これこそが、「民法第698条:緊急事務管理に関する規定」であり、この規定によって善きサマリア人の法が代替可能であるとしているようです。

 

 

応召義務

 

しかし、これを医師の立場に当てはめた場合、極めて微妙な事態に陥ってしまうのです。何故なら、医師には、医師法19条で定められている通り、「応召義務」というものが存在します。すなわち、患者から診療を求められたときに、正当な理由なくこれを断ってはならない、というものです。

 

ここで前項の事務管理の定義に立ち戻ると、果たして医師は「特段義務が無い」管理者であると言い切ることができるでしょうか?「居合わせた医師にも事務管理が適用される」と明文化されていれば、確かに善きサマリア人の法が存在するのと同義と言えるでしょう。

 

しかしながら、実際にはその旨明文化されておらず、緊急事務管理の際の責任限定規定が適用されないという見解すら存在するようです。また、重大な過失が無いことは自身で証明する必要があり、重い立証責任を負わされることにもなります。

 

これらを踏まえた上で「JAL DOCTOR登録制度」を考えてみると、これに登録した時点で機内急病人が発生した際に呼び出されて診察することを了承した、と解釈されてしまうのではないでしょうか。私もちゃんと調べなければこんなこと考えもしなかったと思いますが、ある程度理解してから改めてこのシステムを見直してみると、予め契約を結ぶためのシステムのように思えてしまうのです。

 

そうすると、これまで以上に応召義務の要素が強くなるため、いよいよ何かあった際にこの法律が善きサマリア人の法としての効力を発揮してくれる可能性が一段と低くなってしまうのではないでしょうか。法律に関しては素人なので的外れなことを言っているのかも知れませんが、少なくともここまで調べた結果としてはそのような結論に至りました。

 

なお、刑法第37条では違法性阻却事由の1つである緊急避難に関する規定があるのですが、こちらもこの応召義務との折り合いが悪いようです。すなわち、判例こそ存在しないものの、この応召義務により万一阻却が認められなかった場合、業務上過失致死傷罪、過失致死傷罪、重過失致死傷罪に問われてしまう可能性があるようです。刑事罰なので、要は犯罪者になってしまう、ということですね。なんだ、そりゃ。

 

 

実際の事例

 

「そんなこと言って、実際にはそんなこと無いんじゃないの?」とおっしゃる方もいらっしゃるかと思いますので、実際の事例を挙げてみようと思います。もちろん、私の知識では何も出て来ませんので、こちらもWikipediaから引用させていただきます。

判例は存在しないものの、日本でも紛争に至った事例はいくつか報告されている。

  • 「ある夏の夜の深夜に、日本にある自宅クリニック前の路上で急病人が発生した。クリニックの医師が診察したところ、上気道閉塞を疑われる所見で挿管は不可能と判断された。救急車を手配して、転送のため近所の大学の救急救命センターに電話中、患者は吸気のまま呼吸が停止し呼びかけにも反応がなくなった。(首が腫れた状態で、喉仏の隆起もなく、気管切開が困難な状態であったが、一刻の猶予も許されないまま、)緊急で気管切開を行い、気管切開自体は成功したが、血管を傷つけてしまい、出血多量で死亡した。その医師を待っていたのは、警察による業務上過失致死罪の容疑による取り調べであり、さらには、当夜、あれだけ「助けてください」とその医師にとりすがった患者の妻からの弁護士を介しての損害賠償請求の通知であった。」(平沼高明「良きサマリア人法は必要か」週刊医学のあゆみ第170号pp953-955、1994年)
  • 「機内で発生する事故の頻度はどれくらいなのだろう。知り合いの元スチュワーデスに聞いたところ、彼女の勤務した四年間では緊急事態が四回発生したそうである。一回程、初老の医師が名乗りをあげたそうだが、その時の患者は不幸なことに心筋梗塞で帰らぬ人となった。驚いたことに、遺族は医師の処置に疑問を抱き、一時は訴訟騒ぎにまでいったが、なんとかそれはおさまったらしい。」(松田義雄「機内での出来事」日本医事新報第3629号pp52-53、1993年)
  • 救急救命士の資格を持つ消防司令がプライベートで遭遇した交通事故の際に救急処置を行ったが、「関連法規に抵触する可能性がある」として停職6ヶ月の処分を受けた。(茨城新聞 2011年5月31(火) 業務外の救命措置で消防指令停職6カ月 石岡市)

あまり言いたくはないですが、我々医師にとって、日本で機内急病人を診るということは、いくら善意からであろうとこういったリスクを伴う非常に危険なものなのです。

 

私がまだ医師4年目だった頃、夏休みで成田→ミラノに向かう飛行機に搭乗中、急病人が発生したとの機内ドクターコールがありました。正直、かなり躊躇したのを今でもはっきりと覚えています。この手ぶらの状態で、医師とはいえ果たして自分に何ができるのだろうか?しかし、ここで行かなければ医師になった意味が無いと自分を奮い立たせ、現場に向かいました。

 

結果としては、フランス人のご婦人が気分が悪くなったようで、既に先に来てくれたフランス人医師が診察をしていました。幸い病状もたいしたことなく、すぐに落ち着いて事なきを得ました。良かった良かった。

 

しかし、冷静に考えると良かった良かったでは済まないのです。そのご婦人はフランス語しか話せないようでした。では、もしそのフランス人医師がいなかったら、私はそのご婦人とコミュニケーションが取れたのか?そんな状況でまともな診察ができたのか?そもそも、妊娠の可能性も有り得るわけで、そうだったとしたら脳外科医に果たして何ができるのか?改めて振り返るとゾッとすることだらけだったのです。

 

 

医師として

 

皆さんにはっきりと言っておきたいことがあります。それは、皆さんが思っている以上に、医師は患者さんを助けたい・何とかしたいと思っています。何故なら、そのために医師になったわけですから(もちろん、例外の医師がいることも事実ですが)。それはもう、切実なくらいそう思っています。

 

しかし、これもはっきり言っておきたいのですが、医師とはいえ、病院から離れて手ぶら状態では、ほとんどできることなどありません。そして、仮に凄まじいまでの診断能力で急病人をある程度(それでもある程度が関の山です)診断できたとして、そのあとにできることなど本当に限られているのです。本文からの引用ですが、

JALの機内には、蘇生キットやAED(自動体外式除細動器)など、医療機器を国内・国際線の全便に搭載。飛行中、国内・海外を問わず、機内から専門医の助言を得られるネットワークを構築している。今年1月からは、血中酸素濃度を測定する「パルスオキシメーター」を搭載している。

と、何となく装備が充実して機内でできることが増えて来ている風な書き方をしていますが、分かる人にはこれ以上ない貧弱な装備だと一瞬で分かるのです。今更パルスオキシメーターが増えたところで、そんなのへのつっぱりにもならんよ、と。

 

記事の中で、インセンティブとしてラウンジ利用等を検討しているといったような記載があったかと思います。これが本当であれば正直ケチ臭いと思いますし、そんなの無くても普通にラウンジを利用している人が多いでしょうから、そもそもインセンティブとしての役目すら果たせていない気がします。

 

ただ、我々医師にとって問題なのはそんなことではないのです。もっともっとしっかりやって欲しいのは、法整備や機内装備の充実なのです。先にも言った通り、みんなできれば何とかしたいんです!助けたいし、力になりたいんです!

 

でも、ここまで述べて来た現状が、理想と現実の乖離が、医師の足を遠ざけているのです。実際問題、機内ドクターコールに応じると答えた医師は4割程度だったとするアンケート結果もあるようです。どうすればより良いシステムを作り上げることができるのか?

 

今回JALと日本医師会が作り上げたシステムは、正しい流れに逆行する浅はかな一時しのぎのものとしか思えません。本当に良いシステムを作り上げることは、誰かに押し付けて終わりにするような姿勢では到底達成できません。関わる人々みんながお互いに対する思いやりを持ち、どうすれば誰もがハッピーになれるのかを真剣に考え、その上でしっかりと法整備や機内装備の充実を図っていく必要があると思います。

 

というわけで、今回は以上です。たまにはこんな感じで医療ネタも書いて行こうと思いますので、また是非読んでいただければと思います。長々とありがとうございました。

 

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